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怪談夜泣き燈籠

1962年、大映京都、犬塚稔脚本、田坂勝彦監督作品。

とある長家の中の一軒家から念仏を唱える声が響いて来る。

今日は、越後屋の若旦那又三郎(小林勝彦)の葬式であった。

式を取り仕切っているのは、何でも、越後屋に出入りしていた植木屋の由之助(名和宏)という男だったが、縁遠いにも関わらず、その律儀な態度に、顔を見せた長家の連中達は、しきりに感心していた。

一方、又三郎の女房、お絹(藤原礼子)は、所帯を持って、まだ半年しか経たない内に亭主に先立たれ、寝込んでしまっていた。

やがて、又三郎の母親が駆けつけたと聞いた由之助は、駕篭の側に近寄ると、母親から今ちょうど、借金取り達が押し掛けていて…と、家に近付けようとせず、それを聞いた母親は、それならと言って、借金返済用の15両と、お絹に渡すようにと、別に小判を託して、そのまま帰る事になる。

家に戻って、棺桶に入った又三郎に、何故か、人目のない所を見計らって、こっそり握り飯を入れてやる由之助。

実は、棺桶の中の又三郎は生きており、この葬式は、借金返済に困った又三郎と由之助が組んで、親の家から金をぶんどる、二人だけの狂言芝居だったのだ。

もちろん、女房のお絹も、この事は知らなかった。

その後、寺に持って行かれた棺桶は土に生められるが、由之助は、その土を硬く踏み締めながら、ほくそ笑んでいた。

実は、その夜中にも、戻って来て、すぐに棺桶を掘り起こしてやる計画だったのだが、由之助は、最初からそんなつもりはなく、金の一人占めを計っていたのだった。

お絹の待つ長家に戻り、今後、実家に帰るのかと尋ねると、お絹は、もう実家等へは帰りたくないし、一人で生きて行くくらいなら、今死んでしまいたい等と言い出す。

それなら、俺が殺してやろうかと、由之助が彼女の首に手をかけて締め上げると、お絹は驚愕して払い除ける。
もちろん、彼女に本気で死ぬ気など最初から更々ないのだ。

由之助は、そんなお絹に、実は前から惚れていたと迫り、自分は金を持っているんだと、先ほど、又三郎の母親から騙して巻き上げた金を見せると、現金なもので、お絹は、由之助にあっさり身を任してしまう。

翌早朝、二人きりでいる所を他人に観られ、あらぬ噂でも立てられたら面倒だと、こっそり出ようと扉を開けた由之助は、目の間にぬっと立っていた死化粧姿の又三郎の姿に肝を潰す。

思わず扉を閉めた由之助、気のきいた幽霊なら明るくなって出はしないだろうと、少し間隔を置いて、日が登り始めた頃を見計らい、もう一度そっと扉を開くと、そこにはやっぱり誰もいなかった。

しかし、その直後、家に向って何者かが石を投げ付ける音が響いて来る。

これは、ひょっとすると、又三郎が、生きているのでないかと怪んだ由之助は、墓のある寺へ確認しなければなるまいと考えはじめる。

ある日、長家で、お絹や近所の連中と、賑やかに厄落としの宴席を開いていた由之助は、表で訪ねて来た駕篭留の親分留蔵(中村雁治郎)と出くわす。

越後屋の若が亡くなったそうだなと聞いて来た留に、親父の代から世話になっていたものでと、ここにいる言い訳をした由之助だったが、留蔵は、そんな由之助の顔色を見透かすように、実は、夢まくらに又三郎が立っていた。何か、この世に未練があるらしい。あるとすれば、金と女房の事だろうと謎をかけて来る。

葬式の時、越後屋の母親は一体いくら金を寄越したと聞かれ、五両と答えた由之助だったが、借金の事を母親に伝えておいたはずだな、女房も手に入れたのなら、十両で我慢しておこうと、留蔵は手を差し出す。

裏を見抜かれていると観念した由之助は、言うがままに、十両を渡してしまう。

いよいよ、又三郎は生きていて、留蔵とつるんでいると察した由之助は、その夜、人目をはばかって、墓を掘り起こしに行くが、蓋を開けた棺桶の中には、ちゃんと死体が入っていたので、肝を潰した由之助は飛んで帰る事になる。

ところが、お絹の家に戻ってみると、そのお絹がいない。

近所のものたちの話によると、先ほど、あなたからの迎えだと言う駕篭が来たので、それに乗ってどこかに出かけたと言う。

すぐに駕篭留の仕業と分かり、駕篭屋に乗り込んだ由之助だったが、待ち伏せていた若衆達にこてんこてんにされてしまう。

その頃、当のお絹は、とある料亭に連れて来られ、間もなく、由之助も来るから待っていろと奥座敷に留蔵に案内されて行く。

すっかり、駕篭留の連中に叩きのめされ、すごすごと家に帰って来た由之助は、顔の傷の具合を観ようと、鏡を覗き込んでみると、そこに又三郎の顔が浮かんだ。

一方、奥座敷で一人由之助を待っていたお絹の方も、裏庭に立っている又三郎の姿を観て、気絶してしまう。

その姿を発見した留蔵は、女将に床を敷かせ、裏庭に立っていた又三郎に、話は明日にしろと命じて、別室に引き上げさせる。

実は、由之助の想像通り、又三郎は、自力で棺桶から抜け出して生きていたのだった。

棺桶に入っていた死体は、近くの墓から移された他人の新仏だった。

床に寝かされたお絹は、寝ぼけているのか、側に付き添っていた留蔵の手を握ると、そのまま、留蔵と一夜を明かしてしまう。

翌朝、由之助の家に、寺から駆けつけて来た小坊主が、墓荒らしを報告に来るが、まさか自分がやったとも言えないので、そちらで埋め直してくれと頼んで帰させる。

翌朝、これまでの事情を打ち明けっようと、お絹に会おうと部屋を出て来た又三郎は、女将から、お絹なら、すでに留蔵と一緒に帰ってしまったと聞かされ驚愕する。

しかし、その直後に、タバコ入れを忘れたと言って二人が戻って来たので、その部屋に乗り込んで行き、留蔵と妙に親し気になっているお絹に訳を尋ねるが、すでに二人は関係が結ばれてしまったようで、留蔵は、お絹なら今後、自分が面倒観てやると言うし、お絹の方も、甲斐性のない又三郎とよりを戻すつもりはない様子。

その変わり身の早さに驚きながらも、お絹への未練を断ち切れず、留蔵に刃向かおうとした叉三郎だったが、力で叶う相手でもなく、そのまま、階段から下へ突き落とされてしまう。

その夕方、長家に帰って来た由之助は、誰もいないはずの部屋に布団が敷いてあるので怪訝に思っていると、蚊帳の中に又三郎が座っているではないか。

その又三郎が言うには、自分は生きており、こうして戻って来た。

約束した、母親からの金を寄越せと詰め寄るが、由之助は、その金なら駕篭留に巻き上げられてしまったと正直に打ち明ける。

それを聞いた又三郎は、お絹ばかりか、金までも留蔵に横取りされた事を知り悔しがるのだった。

翌朝、又三郎に家から出ずに、雨戸を閉めておけと言いおいて、由之助は独り外出するが、その後、何も知らない留蔵がその家にやって来る。

お絹から、着物を取って来るように言われて来たらしいのだが、本来の目的は金目当てらしい。

そうしている最中、隠れていた又三郎が現れ、いきなり留蔵に襲いかかるが、やはり、力の差は歴然で、逆に留蔵に首を締められた又三郎は、今度こそ本当に息絶えてしまう。

畳を起こして、床下にその死体を投げ入れた留蔵は、血の痕を拭くと、何喰わぬ顔で家を出かかるが、ちょうど、その場でかくれんぼうをしていた幼児に「見つけた!」と声をかけられたので、思わず睨み返してしまう。

その後、帰宅して来た由之助は、呼んでも又三郎が出て来ないので不思議がるが、葬式の時以来飾っていた位牌が風もないのに転げ落ちるのを目撃する。

しかし、その後、暗がりにひっそり立っている又三郎の姿を発見した由之助は、都鳥という船宿に、お絹がいる事を知らせ、一緒に談判しに行くと誘う。

何の返事もしない又三郎は、由之助の横に音もなく寄り添うように現れると、一緒に付いて行くのだった。

行灯の火が、独りでに消えたりする怪異も、由之助は気づかないままだった。

一方、お絹を連れて都鳥に到着した留蔵は、そこの女将から、花川戸から客が来て待っていると教えられ首を傾げていた。

誰かと思い、部屋に向ってみると、由之助が一人で待っているではないか。

その由之助が、今日は越後屋の若旦那と一緒に礼に来たと凄むので、怪訝な顔をする留蔵。

由之助も、今まで一緒にいたとばかり思っていた又三郎が見当たらないので不思議がっている。

その時、お絹は、鏡の中に又三郎の姿を見て悲鳴をあげる。

さらに、行灯の明かりが消えたので、お絹は失神してしまう。

又三郎の亡霊は、ゆっくり中庭の池の方に移動して行く。

そんな騒ぎに気づかない由之助は懐から包丁を取り出して、「お絹は俺の女だ!」と留蔵に迫る。

しかし、悪党の留蔵、一旦は、その気迫に負けたと見せ掛け、相手を油断させると、手元にあった硯箱で由之助の頭を殴りつける。

そうした乱闘騒ぎを、脇にいたお絹は、焦点の定まらぬ目で観ている。

留蔵は、倒れた由之助のとどめを刺そうと刃物を振り上げるが、それを観ていたお絹が、思わず「人殺し!」と大声で絶叫したからたまらない。

その声を聞き付け、店の女将が駆けつけて来たので、障子越しに何とか言い包めて下がらせた留蔵は、すでに事切れていた由之助の死体を持って、近くの川べりに来ると、石を結び付けて、死体を落とそうとしていたが、そこに現れたのが又三郎の亡霊。

さすがの留蔵も、それを観て青ざめ、慌てて逃げようとして、足を死体と石を繋いだ紐に絡ませてしまったから、そのまま由之助の死体と一緒に川に転落してしまい、二度と浮かび上がって来なかった。

そんな騒ぎも知らず、一人、駕篭で長家に戻って来たお絹の様子は、もう普通ではなかった。

彼女を下ろした駕篭屋の二人も、その異常な言動に恐れて逃げ出してしまう。

家に入ったお絹を待っていたのは、又三郎の亡霊だった。

その深夜、長家の内儀さん連中は、お絹の家から聞こえて来る奇妙な音を不審がり、集まって来た。

どうやら、家の中から釘を打ち付けている様子。

耳をそばだててみると、家の人が家の外に出ちゃいけないと言うから…と、お絹の声が聞こえる。

家の人とは誰の事なのか分からない内儀さんたちは、勝手に、由之助の事だろうと察しをつける。

しかし、その後2日間も家が締め切りになったままなのに怪んだ御近所達が又集まって、無理矢理、お絹の家をこじ開けて中に入ると、そこには誰もおらず、捜していると、畳の下の床下に、又三郎の遺体にすがるように抱きついたお絹の死体が見つかる。

その手には、しっかり、位牌が握りしめられていた。

その後、再び、長家に読経の声が響き出す…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

最初は、何やら、女好きだが甲斐性がない若旦那の酔狂という落語風の設定から始まり、それが徐々に、一人の女を巡る男同士の奪い合いに変じて行くという怪談話。

女房役の女も、生きて行くために、節操なく男を取り替えて行くと言う所がポイント。

このために、その女も徐々に自責の念に駆られ、最後は自滅して行く様を描いている。

明らかに添え物映画風だが、ちょっと、アイデア的にはひねりが加えてあるので面白く観る事ができる。

名和宏が色悪風の小者、中村雁治郎が、その上を行くワルを演じているが、この雁治郎、見た目的に、あまり強そうに見えないのが、若干物足りない所かも知れない。

この作品で一番びっくりしたのはタイトル文字。

白黒作品なので、黒バックに雲というか、煙のような立体的でモヤモヤした白い文字で描かれているのだが、それが急に、一文字一文字、煙になって周囲に広がり消えてしまうという凝った趣向になっていた。

手描きアニメとも思えぬ、その見事な特撮には、正直唖然とさせられた。

今なら、CG処理だろうと簡単に考えてしまうが、当時としては、一体どうやって撮ったのか謎である。